それは二人の間では日常的なこと。
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それは二人の間では日常的なこと。

「ロイドさん、そろそろじゃないですか?」
セシルの背後からの声に、先程までモニターをニヤニヤと見つめていたが、 ロイドは目を離した。
「んー?そうかなぁ〜。」
ロイドは気のない返事をして、再びモニターに気を戻してしまった。
今日も相変わらず、ロイドはランスロットの新機能の実験に夢中だった。
ここのところ愛するランスロットは出番も多くなっている。
さらに軍や戦況も日々展開していっている。
ロイドにしてみれば楽しめる状況だったが、 セシルにとってはロイドの世話もしている以上は仕事の増える困った状況だった。

「そうですよ。」
「うーん・・・」
ロイドからは、心ここにあらずと言わんばかりの声しか出ない。
呆れたセシルは、ロイドの返事を待たずに、その場を立ち去り、どこかへ行こうとした。
「じゃあ、私、準備してきます。」
そのセシルの言葉に慌ててロイドが腰を上げた。そして、ロイドなりの妥協策を提案した。
「この調整しながらでもいい?」
「だめです!」
セシルの返事はきっぱりしていた。
「ここではだめって言ったの覚えてないんですか! 2つのことを同時にしないって約束したじゃないですか! ここでやって、あんまり動かれたら私が困るんです。 この前もその前も後始末が大変だったじゃないですか。 あれを掃除するのは私なんですよ?」
「えー、せっかくの実験なのにー」
ふてくされた表情でセシルを見上げる顔は成長しない子どものようなものだった。
その表情に一度は心が緩みそうだったが、セシルは見ないフリをした。
「だめです。」
ロイドの腕を引っ張って、部屋を後にする。
ロイドは、ズルズルと引き摺られて実験途中のデータを名残惜しく見つめた。

向かった先は、シャワールーム。
泊まり込みになった場合に隊員たちが使用するための簡易なものだった。
大人が一人入るに足りるくらいのものだった。
ロイドとセシルが二人で入るには、少し窮屈だったが、動けないことはなかった。
セシルは、ロイドをシャワールームに入れ、暫く準備した。
「はい、じゃあ、ここに座って下さい。」
廊下に置いてあった粗末なイスを置いて、ロイドに座るように指示した。
ロイドは言われた通りに座って、笑みを浮かべながらセシルを見た。
その目でセシルの行動1つ1つを愛おしく見ているかのように。

次にセシルは、大きな白い布をロイドの首に巻き付けて、はさみを取り出す。
タイミング良くロイドは眼鏡を外して目を閉じる。

「なぁんで君はさぁ、僕の髪まで切ってくれるの?」
はさみを動かして切ろうとしていた手をセシルは止めた。
そして、いつもの笑みを浮かべておっとりと話し出した。
「ロイドさん、ご存知ですか?若手社員が辞めてしまう理由の1つに、 “上司が気に入らない”というものがあるんだそうです。 その中には、仕事上での嫌悪だけでなく、 上司の容貌や外見なんかも理由に入ることあるんだそうですよ。 特に、女性が部下で、上司が男の場合に。」

ロイドはニヤニヤとしながらセシルに続けて言った。
「ふ〜ん、セシルくんに辞められたら、僕、困るなぁ〜。」
「でしょう?」
はさみはシャキシャキと音を立ててロイドの髪を切り落としていく。
「私は、格好いい上司の下で働きたいんです。ロイドさん以外の人の髪なんて切りません。」
ロイドはそれを聞いて声を上げて笑った。

「格好いいロイドさんでいて欲しいんですよ。」

はらりはらりと髪が落ちる。
それは二人の間では日常的なこと。

「あはぁ!じゃあ、僕も格好よくなるように勉強しなきゃねぇ〜」
「いいんですよ。そのままでも私は、            」






いつもセシルがロイドの髪を切っていたらいいなって。
両思いだったらもっといいなって。