上司は心配性 それは、ゼロとラウンズの3人とキャメロット、ローマイヤが対話をした夜のこと。ホテルの中のラウンジは夜景が見渡せる綺麗な場所だった。ゼロとの対話が終わると、スザクはさっさとホテルを出て行ってしまった。そうなるのも仕方がない。彼にほとんどの指揮権は与えられていたから、ゼロとの駆け引きをどう処理するか悩まざるを得ない状況だった。 ローマイヤも早々に引き上げ、ナナリーの元へと帰って行ってしまった。 残された四人も遅れて帰宅しようとしていた。エレベーターの中で、ジノがセシルに話しかけた。 「さっきのラウンジ綺麗でしたね。」 「え?」 思わず聞き返してしまった。 「えぇ、そうね。」 あの緊迫した雰囲気の後で、こんなことを言えるなんて大物だ。しかし、ジノなりに空気を和ませようとしていのかもしれない。そうセシルは思った。 「あーあ。一杯くらい飲んでみたいなぁ。」 「ジノは、まだ飲める歳じゃない・・・」 「そんな堅いこと言うなよ!アーニャ!この一件が落ち着いたら今度行く?」 「いい。」 アーニャにあっさりと断られる。 それを見て、セシルは微笑ましく見ていた。ジノはアーニャのことが気に入っているのではないかと思った。 「あ、セシルさんはもう飲める歳なんですよね?」 「ええ。そうですけど・・・」 「今度連れて行ってください!」 無邪気な笑顔が投げかけられる。 「ふふ、いいですよ。」 「やったぁ!」 ガラス張りのエレベーターは、“夜”を反射させ、エレベーター内の鏡になっていた。 セシルはロイドに見られていたような気がした。 「3年後、一緒に行きましょう?」 「えぇー?」 「未成年の方とラウンジでデート出来るほど器用じゃないのよ。」 笑顔で切り返すと、ジノはがっくりした。 ロイドはもうこちらを見ていない、感覚だけだがそう分かった。 だったら!と子どものように飛びついてくるジノ。 「セシルさんは此処に来て長いんでしょ?どこかに連れて行ってください!」 「少しなら知っていますけど、私がよく行くところでいいのかしら?」 「もちろん!学園かラウンズと一緒にいるしかないから、たまにはソトを歩きたいんですよね。」 「そうねぇ・・・学園の近くに美味しいお店がありますよ。」 「そうですか!じゃあ、今度行きましょう!」 「あはぁ〜!」 突然ロイドが入ってきた。この状況に他の三人は驚かざるを得なかった。会話に参加していなかったアーニャでさえも。 「あの、カフェのこと〜?」 「えぇ、そうです。」 「あそこのディナータイム良い感じなんだよねぇぇ!僕も久しぶりにあそこのピザ食べたぁ〜い!」 ジノが驚いた様子でロイドを眺めていた。それもそうだ、こういう場面で自分も行くと表明するような人ではないとロイドのことを評価していたのだから。そんなことも全く気にもせずヘラヘラと笑うロイド。 駄々っ子を二人抱えたセシルは対処に困って、「それなら、三人で、あ、いや、みんなも一緒に、5人で行きましょう!」と言う。 「うーん、まぁいいですけど。」 ジノは納得の行くような納得のいかないような様子で承諾した。 「あはぁ!決〜まりぃ〜!」 「今日の伯爵、変。」アーニャが誰にも聞こえない声で呟いた。 ロイド・セシルとアーニャ・ジノが学園近くで別れると、セシルがロイドに話しかけた。 「ロイドさん、あそこのピザ好きだったんですか?」 「ん〜?そうだったのかもねぇ〜。」 なぜ、そこで過去形になるのか。訳が分からない。手応えのない返事に頭に疑問符が並ぶ。 「あ、そ、そうですか・・・」 解せないといった顔のセシルを見て、溜息をつきながら言った。 「君も結構鈍いんだねぇー。スザクくんほどじゃないけど。」 「はぁ?」 セシルより数歩早く歩いて言った。 「彼と3年後、あそこに行く時には、休暇あげないからねぇ〜。」 夜空の下に居たのは、妬いた上司と妬かれた部下。
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