季節外れのマフラー
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暦の上ではすでに春だった。その人たちが集まる部屋にはあまり季節は関係なかった。
「おぉ〜はよ〜ん」
ほっそりと縦に長くのびたような姿の男が部屋に響き渡るように声を出した。その声は飄々としていて、聞くものによってはふざけているようにしか聞こえない。
その声に反応したのは、特派を管轄下に置いているシュナイゼルの側近の一人。
「あら、おはようなんて時間じゃないんじゃない?」
「あれぇ〜?カノン、こんなに朝早くからどうしたの?特派に入隊希望〜?」
「遊びにきただけよ。」
「そうなんですか?殿下。」
「ああ、たまたま時間ができてね。」
大事にしている部隊の様子を遊びついでに偵察しにきたという様子だった。手には紅茶がある。その紅茶は残酷なほどに濃かった。セシルが気を利かせて出したらしい。
会話がある程度落ち着いた頃を見計らって、カノンが言った。
「ねぇ、ロイド・・・」
はい?とくるりとカノンの方を向いたロイド。
「あなた、今、何月だと思ってるの?」
「さぁ?僕は、研究以外は興味がないですからぁ〜。」
「もう3月よ!?」
変わり者の一人でもあるカノンですら、会話に付き合うのは疲れるらしい。少し声を荒げた。
「冷たい風も吹くが、外は暖かいぞ、ロイド。」
シュナイゼルも諭すようにロイドに語りかけた。
「はぁ〜そうですか〜。」
「『はぁ〜』じゃなくて。この暖かくなりかけてるこんな日にマフラーなんて・・・」
ロイドは気温の感じ方も変わっているのかな、とシュナイゼルは笑った。
「ああ、これですか。まぁいいじゃないですか〜。少しでも寒いときにはしようと思っててね〜。」
首のあたりから下がった、マフラーの端をひらひらと振った。
カノンが一歩近付いて、そのマフラーを掴んで眺めた。そして、何かに気付いたよう。
「あら、これ・・・」
「どうしたんだい、カノン。」
シュナイゼルの問いに答えるようにもして、カノンが言う。
「手編みじゃない。」
「あは!さすがカノン!」
ロイドは茶化すようにした。
その表情、態度に苛立ったカノンは、むっとした顔をしてロイドに言い放つ。
「あんたなんかに手編みをあげる人っていたのね。」
「あはぁ〜!」
何とも捉えがたい笑い声をロイドは上げた。
そんなやりとりを見て、シュナイゼルがカノンの肩をぽんと叩いた。
「カノン、あそこにいるだろう。」
シュナイゼルが指す「あそこ」には、紫色の髪をした女性が。
先程シュナイゼル、カノンに出した紅茶に使ったトレーで顔を覆っている。
そのトレーの奥が真っ赤なのを確認して、カノンは納得した。
「ああ、いましたね・・・。」

もう一人の特派、スザクがセシルに駆け寄る。
「セシルさん!大丈夫ですか!!顔が!顔が真っ赤ですよ!熱があるんじゃないんですか!?」
これまでのシュナイゼル、カノン、ロイド、そして間接的に参加していたセシルのやりとりを聞いていたはずなのに、"分かっていない"らしい。
セシルは、スザクの言葉に顔を横に振り続けていた。そんな二人を気にも掛けず、マフラーをしたまま、ロイドは仕事にうつる。
カノンは、彼ら三人の様子を目に収めて、シュナイゼルに呟いた。
「特派は平和ですね。」