愛おしい浸食
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「あの・・・・、ロイドさんって・・・・」
「なぁに〜?」
「それしか食べてないんですか?」

セシルの言う“それ“はロイドのデスクのそばにあるゴミ箱に捨てられていたものを指していた。
ゼリー状の栄養補給食品の飲み終わったカラの容器だった。
食事代わりにはなるだろうが、それを主食とするのはあまり良くない。
役目を果たした容器たちはどっさりと溜まっていた。


「ん〜?ああ、これのこと?」
ロイドはゴミ箱に目を向けた。
「しか食べてない、かもね〜。あはは。」
何か悪いことしているかといった顔で言ってきたロイドにセシルは驚いた。
「ちゃんと食べてます?」
「いや〜、ないね〜。」
「それで足りますか?」
「ど〜か知らないけど、食事は買うのも嫌だし、作るのはもっと嫌なんだよね〜。」
そんな話は興味がないのかパソコンのモニターだけを見つめていた。
「体のこと大事にした方がいいですよ?」
「ありがと〜。気が向いたら、します。」
目を細めてセシルに返事をした。


翌日、一日の仕事も終わりかけていた時間。
もう帰るはずのセシルがロイドのデスクのそばに来た。
「たぶん、昨日言ったことなんて忘れてると思って・・・」
セシルの声でロイドがモニターから目を上げセシルを見ると、目の前に一人分のサンドウィッチがあった。
「作ってきました。」
それらは見かけは良かった。久しぶりに見る固形物に少し気分が良くなった。
「あはっ!ありがと〜、ここの分析が一段落したら、食べるよ〜。」
「食べられるだけでいいですよ。じゃあ、お先に失礼します。」
セシルはふと笑って、トレーを空いた場所に置いて、部屋を出た。

ドアが閉まってから、ロイドは手を彼女のお手製料理に伸ばした。
口に含むとパン独特の小麦粉の味が広がった。
二口目には、明らかに多すぎるマヨネーズの味が舌を襲った。
もう一回食べると、ちょっとだけ味覚をおかしくされていた。
彼女は料理はし慣れていないのだろう。
でも、美味しかった。
けど、今まで食べてきたサンドイッチの中では一番不味かった。
それでも、美味しかった。

ロイドが今まで食べてきたものは、金を払って食べているものだった。
アスプルンド家にいた時も食べていたのは給料を、金を貰っているから作ってくれる料理人たちが作ったもの。
レストランへ行ってもそう。
カフェに行っても、ファーストフードに行ってもそうだ。
こちらが払うからその代わり、食べ物を与えてくれていた。
でも、今味覚すら壊してくれているサンドウィッチは、それとは違う。
払わなくても与えてくれた。こちらの見返りなど必要としていない。
気持ち一つで与えてくれた。
体を心配する気持ちも加わった、初めてのものだった。

―――食べられるだけでいいですよ。

セシルの声が思い起こされる。
料理人や外食で出たならば突き返すのだろうと思いながら、二つ目のストロベリージャムの挟んであるのを食べた。
甘すぎた、が、ロイドは食べた。
全て食べた。



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「あれぇ。お昼はサンドウィッチ?久しぶりだねえ。」
「たくさん作ったから食べてください。スザクくんも食べてね。」
「はい、ありがとうございます。」
そう言ってスザクも一つを手に取り口に運んだ。
顔が歪んでいるのが見えた。
ロイドも一つ食べ始めた。スザクのように顔を歪めることはなく、食べた。

彼女の料理に何もおかしいことなんてないと思う自分に恐ろしさを感じながら。
浸食はあの時から始まっていたのだと思い出しながら。










ロイドがはくしゃくだって言うから
手料理食ったことないんじゃねぇの?と。