1+1=0 「結婚しよう。」 「は?」 突然の台詞にセシルは驚いて、すっとんきょうな声を出してしまった。 「って言うの?」 「・・・・何のことですか?」 自分に言ったのかと思って早くなりすぎた心拍数をおさえながら返事をするのは簡単なことではなかった。 「プロポーズってこうやればいいんだよね?」 「はぁ・・・・」 誰にするのかと聞こうとするとロイドから事情を話してくれた。 「来週お見合いするんだよね〜」 お見合い。 伯爵ならば、なくもない話で、今までずっと結婚してこなかった方がおかしいのだ。 「そうですか。」 どう言ったって、止まったり変更されるものではないことはなんとなく予想出来た。今まで断り続けてきたらしいロイドがちゃんとお見合いをする気になっているのだから。何か事情があるのだろう。そして、自分は何も関係ないんだ。そう胸の中に刻み込むように、思った。 「さっきみたいな潔い言い方の方が女性としては嬉しいですね。でも・・・、一生心に残る大切な言葉なんですよ?」 ちょっとだけでもロイドの気持ちが変わらないか、そう思って忠告を付け足した。 「ふ〜ん。」 セシルの意図なんて伝わるはずもなく、忠告はロイドの耳には残らなかったようだ。 全く興味のなさそうな声が返ってくる。 そうかと思うと、ロイドは、何かに気づいたらしく、また尋ねた。 「じゃあさ〜キミは言われたことある?」 なんて悲しいことを言うのだろう。心に影が出来たような気がした。 「いいえ。」 そう答えてもロイドはろくな返事もせず、その場は静かになってしまった。 セシルは何故ロイドがそんなことを聞いたのか、聞かなかった。 そして、数日後、ロイドのお相手が研究室にやって来た。 ------------------------------------------------------ 「いくらなんでも・・・」 「ん〜?何か問題?」 「でも、会ってすぐなんて・・・。」 時間の無駄だからと言って、パソコンに向かおうとした。 が、突然体を翻して、セシルの方を見た。 「セシルくん!」 「何ですか、急に。」 そのロイドの勢いに驚いて、体をビクリとさせた。 「ランスロットの次はタイムマシンを作ろうと思うんだ〜。」 また訳の分からないことを言っていると半ば諦めて呆れた顔で聞き返した。 「タイムマシンですか・・・?」 「そ、どうやって作ろうかな〜あはっ!」 そう言って笑うロイドの顔は、急に幼くなる。 それにセシルはほっとして、それでも複雑な思いを消せないでいた。 「未来に行って、ミレイさんとのお子さんでも見に行くんですか?」 感じが悪いことを言ってしまったかと一瞬反省したが、ロイドは分かっているのか分かっていないのか、ヘラヘラとしていた。 「んふふ。内緒ぉ〜。」 隠し事なんて意地悪ですねと言って、さっき出した紅茶のトレーを持って研究室を出ようとした。 ロイドは、パソコンの真っ黒な画面に写った小さくなっていくセシルの背中に言った。 「過去に行ってキミに言おうかな」 聞こえないように小さく。 聞こえるようにしっかりと。
お互い気持ちは1ずつ持ってるけど、すでに0にしかならない状況。 |