プレゼント 良く晴れた日の朝だった。 特派にもいつもの朝が訪れる。 朝はたいていロイドとセシル二人だけの部屋にスザクの声がした。 「セシルさん!」 勢いの良いスザクの声に驚いて振り返ると、ボリュームのある花束が目の前に現れる。 香りがセシルを包み、赤、黄色、白、様々な色が“世界”になる。 「お誕生日おめでとうございます!」 明るい祝福の声になお驚いた。 「ありがとう」 花束を受け取り、スザクの笑顔を見ると笑みがこぼれる。 「これくらいしか、差し上げられなくてごめんなさい。」 律儀な少年は、申し訳なさそうに言った。 セシルはその言葉で幸せになれた。 「誕生日覚えてくれてたのね。嬉しいわ。」 家族とか恋人とか親しい友人が誕生日を祝ってくれるものだと思っていた。 スザクが家族同然になれたのだろうかと思うと余計に嬉しかった。 「あれぇ〜?」 ロイドの声が入ってくる。 「プロポーズゥ?」 「違いますよ!」 スザクが焦って訂正する。 「お誕生日にもらったんです。」 セシルがロイドに花束を見せると、ロイドはカレンダーに目をやって、うーんと唸った。 「え、ロイドさん、知らなかったんですか?」 スザクの言葉を聞いて、ロイドはもう一度カレンダーを見て、うーんと唸った。 さすがのスザクもこういった雰囲気は悪いということくらいは分かった。 それを見て、セシルはスザクにフォローを入れる。 「ああ、いいのよ、スザクくん。」 セシルにとっては、ロイドが自分の誕生日を覚えていない、もしくは誕生日を知らなくても良かった。ロイドにそんなことを求めること自体が間違いだと長年の関係から分かっていた。 「え、でも・・・」 「いいのいいの!私は、今日この花束をもらえて嬉しいのよ。さ、もう学校行く時間じゃない?遅刻はだめよ?」 そう言って、スザクを押し出し、見送った。 花たちを花瓶に移し替えてから、自分のデスクに戻ると、上司が名を呼んだ。 「セシルくーん。」 「はい?」 「何が欲しいぃ〜?」 「は?」 意外な言葉だった。諦めていたと思ってはいたけれど、期待していたのも嘘ではなかった。待ち望んでいた言葉が耳に突き刺さった。 「何がって・・・」 「誕生日〜プレゼントォ〜!」 満面の笑みでセシルに迫ってきた。 「欲しいものがあれば言ってぇ〜」 手をひらひらと振り、セシルの言葉を待っていた。 セシルは固まった思考をもう一度動かす。今まで何度か願っていた。けれども、今、声にしてみたい、願っていた光景を伝えて良いのかと悩んだ。 ロイドの眼をじっと見つめて、心の準備を終えて、息を吸う。 「じゃあ、手を繋いでいてください。」 数秒の間が出来る。 セシルは変なことを言ってしまったと思って焦る。じわりと嫌な感覚が支配する。 「あっはぁ〜」 そうおどけると、ロイドはセシルの左手を握った。 「これでいいのぉ〜?」 ぎゅっと握ってきた右手は彼女のそれより少し大きくて、少しだけ冷たかった。 セシルは頬を微かに紅く染めて握り返す。 「はい・・・十分です・・・。」 やっとのことでその言葉が出てきた。 ロイドといえば、困る様子も照れる様子もなく、いつも通りおちゃらけていた。 「片手じゃ仕事できないねぇ〜。」 それを聞いて、ああ私のことなどどうとも思っていないのだろうか、と寂しくなる。 自分よりも仕事が大事と言うことも分かっている。自分ではない他の誰かが好きな可能性だってある。 そして、握っていた手を緩めて、ときめいた心を消す。 「もういいですよ。ありがとうございました。」 そっと手を戻した。その表情は、哀しみが混じった笑顔。 ロイドの眼にそれも映る。そして、へらっと笑いながら言う。 「どういたしましてぇ〜!あ、もう少し誕生日でいいよ〜。」 一度離れた指を引き戻して強く繋いだ。さっきよりも強く。 セシルは顔が真っ赤になっていた。
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