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「ここで待つなと言ったろ。」
先生の声がして、ふと顔を上げる。

ここは、銀魂学校近くの公園。砂場、滑り台、ブランコ、ベンチが数台あるくらいの小さな公園だ。
俺は銀魂高校の3年Z組の、ごく普通の学生。剣道部に所属し、進路に悩んでいる。3年Z組はアクの強い人ばかりで、ひっそりと生きている。
さっき声を掛けた人は、銀魂高校の教師。伊東鴨太郎。そして、北斗一刀流で免許皆伝をされた道場の先輩でもある。そして、俺の恋人でもある。

「誰も通らないから大丈夫ですよ、先生。」
「大丈夫じゃないだろ、さっきうちの高校の生徒が歩いてたぞ。」
「あ、剣道部かもしれないです。今日は結構遅くまでしごかれてましたから。」
先生は、鼻で笑い飛ばした。どうせたいしたことのない練習なのだろうと。先生からしたら、いや北斗一刀流免許皆伝者からすれば、部活程度の練習などたかが知れていると言いたいところなのだろう。それには同感できる。俺も部活よりも道場の練習の方が何倍も辛い。
「遅かったということは、ここではそんなに待っていないんだな?」
「はい、10分も経ってないです。」
先生は、俺の顔を見ずに「それなら良かった。」と言った。おそらく、この寒い季節に公園で待ち続けていないかと心配してくれていたのだと思う。
俺は嬉しくてつい口角が上がってしまう。そんな俺に気付いているか気付いていないか分からないが、先生が腕時計を一度見て、「もう帰るぞ。」と言った。
「はい。」
素直に先生の指示を仰ぐ。そして、座っていたベンチから立ち上がり、先生の後ろをついていく。
「そういえば、君はまだ進路調査書を出していないらしいな。」
「どうしてそれを?」
「Z組の坂田の机に放置されていたから見た。」
「どうして?」
「さぁな。」
そう小さく呟いた先生の息は白く、空中に溶けて消えていった。

「俺のこと心配してくれていたのかと思って、俺、勘違いしちゃいますよ?」
試しに言ってみる。
先生は相変わらず俺の方を振り返らず、呟いた。
「そう思うなら、そう思えばいい。」
その声は小さく、俺の耳に微かに届いた。
だから、俺も同じように小さく「ありがとうございます。」と呟いた。

「でもね、先生。」
「何だ?」
「先生のことが心配だから、俺、高校に残りたいです。」
バカなことを言うなと強い口調で跳ね返される。
「君に心配されるほど、弱くない。」
ツンとした表情で言い放つ先生。
そういう意味じゃないんだけどな・・・と苦笑いするしかなかった。

先生はさっきの発言に気を損ねたのか、暫く歩いていたものの、会話が無かった。このままお互いの家に帰るのは嫌だ。

だから、俺は何気なく言葉を口にした。
「先生と一緒に居られれば、どうなってもいいです。」
心で思っていたことだから、そんなに勇気のいるものでもなかった。
先生は、少し驚いている様子だった。
その表情が妙に可愛らしく見えてきた。先生の腰に腕を回して、背中で手を交差させる。
そして、先生のマフラーに顔を埋めた。カシミア100%の良いマフラー。肌に触れるとなめらかで心地よかった。
「子どもみたいな進路希望だな。」
先生のふっと笑う呼吸が愛おしい。
「だめですか?」
「ああ。まずは、ちゃんと高校を卒業しろ。そしたら、」

「デートを週1回増やしてやる。」

「それだけですか。」
おかしくて笑い堪える顔をさらに埋めた。マフラーからは良い香りがしていた。

十分な褒美だろ。
その先生の声を聞いて、体を先生から離す。
顔を見ると、暗がりでよく見えないけれど、先生の顔は赤かった。
先生なりの精一杯の「一緒に居よう」宣言だったのだろう。

そう納得して、「そうですね。」と言って、俺は笑った。



(2009/02/10 篠原君がほぼオリジナル設定。笑。そして、鴨太郎の担当教科が決められなかった…政経かなぁ…?)