s.m.i.l.e 明るくなる景色と反して暗くなる視界。彼らの顔が薄くなっていく。 さようなら。 ありがとう。 強い痛みが消えた。閉じ続けた眼を開くと、そこには白い景色。まだ生きているのだろうか、そう思ってしまった。しかし、辺りを見渡しても、誰もいない。真選組もいなかった。 なぜかここに立ち止まるべきではないと思い、歩いた。方角さえ分からないのに歩いた。 白さは深かった。 薄暗い空の元、歩き続けるとにわかに世界が明るくなった。空があることに気がつく。太陽は世界にまぶしさを与える。きらきらと輝く。 どこを歩いているのだろうか。不安になる。 歩くのをやめようかと思った瞬間。光が一段と強くなって、咄嗟に眼を閉じる。再び開けると目の前の景色を疑った。 「先生!」辺りはますます輝きを増していた。美しかった。目の前には、部下の姿。 「篠原くん。」 「御苦労様でした。」 彼はただただ優しく笑って立っていた。 「痛かったですね。」とそう言って、僕の手を取ってくれた。彼の手はとても温かく。その温かさで私の冷たさがよく分かる。そして、失ったはずの腕が今はあることに気付く。ああ、きちんと死ねたんだと。 「先生。俺は欲張りでしょうか。」 彼は複雑そうに笑った。そんな顔をするなと思った。 「先に逝っておきながら。」 彼があの車内で逝ってしまったことを悟る。 「先生に笑って欲しい、なんて、思ってしまう。」 今、うまく笑えていないことが分かった。「我が侭ですか。」より一層悲しさを強めた笑顔がこちらを見ている。 「いや。」 僕は笑った。 できるだけ素直に笑った。 そんな僕を見て、彼は喜びを帯びた暖かい笑顔を浮かばせた。 そんな彼を見て、僕は自分がうまく笑えているのだと分かった。 もう手の冷たさは感じなくなっていた。 (死んでも上司と部下。2008/10/05)
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