バイオレンスモーニング
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「ろーいーどーさーーーん。」
その日はロイドが遅刻していた。いつも来る時間から30分経っても来なかった。 部屋に電話しても、携帯に電話しても出なかった。 だから、部下として上司の安全を確かめるため、というよりも起こしにわざわざ部屋まで来た。


ドン、ドン、ドン、ドン、


ドアを叩いたが反応がなかった。
センサーに触れるとドアが開いた。ロックしていなかったようだ。
「入りますよー?」
中にいるかは分からなかったが、声をかけた。

中に入ると部屋は“無”という言葉がぴったりだった。ほとんど、何もなかった。
キッチンは全く使われた形跡もなく、静かだった。
部屋を覗くと、部屋には一人用のベッドと小さなテーブルがあった。
テーブルの上には、灰皿があった。何本か吸い殻が入っている。
その横には、昨日飲んだらしい赤ワインのボトルとグラスがあった。
普段、酒を飲むところなんて見ないだけに胸をつつかれた気持ちになる。
確か、昨日の夜もあまりうまくいってない様子だった。言葉にはしなくても分かっていたから、突っ込んで話すことをやめていたけど。
ボトルはもうほとんど入っていなかった。きっと悔しくて飲んでいたのだろうと察した。

ベッドの方へ目を向けると、長身のその姿があった。
仰向けになって、眠りの中にいるロイドの顔はいつもと違う。
ああ、やっぱり29歳なんだ。
そう思った。普段はにやついた顔して、おちょくったり、偉い人もからかっているような人だったが、眠った顔を見ると男の人の顔だった。
自分が知らないところでたくさんの経験を重ねているのだろうか、そんな風に見えた。
凛々しい顔だった。


「疲れてるのかしら。」

ロイドはぐっすりと眠りの中だった。
起こしたらかわいそうだわ、そう思った。
ロイドの顔を眺めているうちに、窓から差し込む光がロイドの顔に刺さった。
セシルは足音がしないようにそっと窓に向かって行って、カーテンを閉じた。
そのカーテンの音に気づいたのか、ロイドが目を覚ました。
上半身を起こし、セシルの方を見ている。

「あ、ごめんなさい。起こしちゃいましたか?」

話しかけたが、ロイドは未だ夢の中にいるような顔をしていた。何が起きているのか分かっていない顔をしていた。
セシルは、カーテンを閉め切ってベッドの方へ戻って、ロイドに話した。

「今日はもう少し寝ててもいいですよ?スザクくんもまだ来ませんし。」

今日だけですよと付け加えて、部屋から去るために体の向きを変えようとした時。
腕を捕まれ、一気にベッドへと体を持って行かれる。

「きゃっ!」

叫び声をあげた。
気づくと、ベッドの上にいた。
顔はロイドの右腕に埋もれていた。
ロイドの来ていたTシャツに顔が触れて、においがした。それは、ロイドのにおいだった。
一人用のベッドに大人の男と二人で同じベッドを共有している状態は窮屈で、その窮屈においた体を直そうとして、上半身を起こそうとすると、ロイドの両腕はグッと強くなり、セシルはいよいよ動けなくなった。 そして、ロイドの左手は、セシルの髪を二度撫でた。
「おはよう。」
小さく聞こえた。
暫くじっと静かにしていた。
動く気にはならなかった。
ロイドのにおいがしていた。
右耳から心臓の音がする。
ロイドの心臓の音。
音が小さいのか大きいのかどんなリズムかよく分からなかった。
好きなのかもしれないと思った。
けど、そんなのはどうでもよくて、ただ、このまま埋もれていようと思った。





「・・・・あれぇ〜?」

ロイドの声を聞き取って、思わず起きあがった。
知らない間に眠っていたようだ。
ロイドはいつもの眼鏡をかけて、怪訝そうな顔をして、セシルを見ている。
「僕ら同棲してたっけ〜?」
それを聞いて驚いたが、セシルは微笑った。
「おはようございます。」
「ああ、おはよう・・・・」
まだロイドは納得いかない顔をしていた。
「同棲はしてないですよ。」
「だよねぇ〜?・・・なんでここにいるの?」
「はい?」
「“朝”這い?」
思わず言葉を失いそうになった。
「おぼ、えてない、んですか?」
「んあ?何を?」
「起こしに来たら、ロイドさんが・・・引っ張ったんじゃないですか・・・」
「え?キミを?ベッドに?そんなことする筈ないよ〜。まっさかキミになんて〜。」
あっはっはと笑い声を付け加えたこと、何も覚えていないこと、悪びれていないこと、自分の言うことに耳を傾けない無礼さはセシルがロイドに右ストレートを食らわせるのに十分な理由になった。
好きなのかも知れないと思ったことは自分の中で消し去ってしまおうと決めて、ロイドの部屋を出た。











ロイド側。